Sustainable Design サスティナブルデザイン/環境問題を考える

将来にわたって持続可能(サスティナブル)な低炭素社会の実現に向けて、様々な取組みが始まっています.建築は、わたしたちの日々の暮らしを支える一方で、従来から膨大な資源とエネルギーを消費してきました.近年、建築分野のエネルギー消費量及びCO2排出量の増加は著しく、省エネルギー対策のより一層の強化が求められています.

1. 建築のサスティナビリティー

建築は、わたしたちの日々の生活を支えている大きな要素です.20 世紀の急速な都市化は、わたしたちに快適な生活をもたらしました.大量生産、大量消費そして大量廃棄をともなう経済の拡大とともに建築技術は飛躍的に向上し、社会の器としての役割を確実に果たしてきました.一方で、大気汚染や公衆衛生問題など都市部の環境悪化に端を発した公害問題は、地球温暖化による気候変動や自然生態系の変化、異常気象、資源枯渇といった地球規模の環境問題へと拡大し、わたしたちの生活基盤そのものが脅かされる事態をひき起こしつつあります.
「地球環境・建築憲章」(2000年)では、わたしたち建築専門家がこれから取り組んでいかなければならない5つの目標が掲げられています.

  1. 長寿命:建築は世代を超えて使い続けられる価値ある社会資産と なるように、企画・計画・設計・建設・運用・維持される.
  2. 自然共生:建築は自然と調和し、多様な生物との共存を図りながら、 良好な社会環境の構成要素として形成される.
  3. 省エネルギー:建築の生涯のエネルギー消費は最小限にとどめられ、 自然エネルギーや未利用のエネルギーは最大限に活用される.
  4. 省資源・循環:建築は可能な限り環境負荷の小さい、また再利用・ 再生が可能な資源・材料に基づいて構成され、建築の生涯の資源 消費は最小限にとどめられる.
  5. 継承:建築は多様な地域の風土・歴史を尊重しつつ新しい文化として 創造され、良好な成育環境として次世代に継承される.

サスティナビリティーとは、単に建築の耐久性や建築設備といった個別の問題にとどまらない、広い意味での「環境」にかかわる概念です.わたしたち建築専門家は、それぞれの分野で環境の視点から新しい理論や技術を開発するとともに、計画・建設から運用・改修そして解体・廃棄段階に至る建築のライフサイクル全体に対して、協働して問題を解決していくことが求められています.
現在、わが国において、住宅・非住宅建築物部門(以下、「建築物」という)のエネルギー消費量は、全エネルギー消費量の3分の1を占めています.また、全CO2排出量の約4割は、建物の建設、運用から解体にいたるライフサイクルを通して排出されるCO2(LCCO2)であるといわれています.これらは、過去25年間で産業部門や運輸部門と比べて顕著な増加傾向を示し、その主な要因は床面積や建物使用時間(営業時間)の増加、世帯数や使用機器の増加などライフスタイルの変化によるものであると考えられています(図-1,2).
生活水準や経済活動の質を落とすことなくエネルギー消費量やCO2排出量を削減するためには、省エネルギー対策の強化と再生可能エネルギーの活用を推進するとともに、ライフスタイル・ワークスタイルの変革を促す抜本的な取り組みが必要です.省エネルギー対策の直接的な効果だけではなく、同時に得られる快適性や健康性、知的生産性の向上などの効果(NEB:ノン・エナジー・ベネフィット)に着目し、低炭素社会にふさわしい住まい方、働き方を実現できる仕組みづくりが求められています.

サスティナブルデザイン サスティナブルデザイン

2. 低炭素社会へのロードマップ

低炭素社会の実現には、住宅・建築物部門におけるCO2排出量を大幅に削減することが必要です.とりわけ、運用段階のCO2排出量はLCCO2の6割以上を占めるため、建物使用時のエネルギー消費量をより一層削減することが不可欠です.2010年、わが国は、2020年までに学校などの新築公共建築物でZEB※1(ゼロ・エネルギー・ビル)を実現し、新築住宅の標準をZEH※2(ゼロ・エネルギー・ハウス)とする目標を掲げました.さらに2030年までには、新築建築物、新築住宅ともに平均でZEB、ZEHを達成するという将来像が示されています.また、運用段階だけでなくライフサイクル全体としてCO2収支がマイナスとなるLCCM(ライフサイクルカーボンマイナス)住宅のコンセプトが提言され、研究開発と普及のための取り組みが始まっています.
現在の水準では、業務ビルの一次エネルギー消費量(MJ/㎡/年)は住宅の4~5倍に上り、ZEBの実現はZEHに比べて遥かに高いハードルであると言えるでしょう.しかし、資源エネルギー庁に設置された「ZEBの実現と展開に関する研究会」の報告書によれば、2030年までの技術進歩を踏まえると、3階建て以下の低層オフィスビルであれば完全なZEBが可能であり、10階建てでも現状の一次エネルギー消費量の8割程度は削減可能である、と試算されています(図-3).ZEBの実現にあたっては、建築外皮の性能向上、設備機器や制御システムの高効率化、再生可能エネルギーや未利用エネルギーの活用といった要素技術の確立とともに、省エネによる快適性や知的生産性の向上(NEB)を、居住者が価値あるものとして感得できる建築のあり方を創りだしていかねばなりません.
地球温暖化問題に端を発した省エネ意識の高まりは、東日本大震災によって引き起こされた電力需給バランス見直しの流れを経て、エネルギー消費に関する人々の意識を大きく変えました.わたしたち建築専門家には、こうした変化を一時的なものにするのではなく、次なるライフスタイル/ワークスタイルをよりリアルなものとするためのきっかけづくりが求められています.

※1 ZEB…建築物の躯体・設備の省エネ性能の向上、エネルギーの面的利用、再生可能エネルギーの活用等により、年間での一次エネルギー消費量が正味(ネット)でゼロまたは概ねゼロとなる建築物
※2 ZEH…住宅の躯体・設備の省エネ性能の向上、再生可能エネルギーの活用等により、年間での一次エネルギー消費量が正味(ネット)でゼロまたは概ねゼロとなる住宅

出典:資源エネルギー庁「エネルギー基本計画」平成22年6月

建築の省エネルギー